創作:夢の中の訪問者

引っ越したばかりのアパート。

前住人は喫煙者だったようで黄ばみが残る壁、傾いた室内灯、隙間があいて閉じ切れない。部屋のあちこちに築年数が古さを感じさせる要素が満載のアパートだったが、自分だけの城を手に入れたと思い満足しながら生活をし始めた。

とある日のこと。

玄関チャイムが鳴ったことにより、朝寝坊を楽しんでいた私はたたき起こされた。

宅配なんて頼んでいない。

引っ越して間もないアパートなのに、来客の予定もない。

不審に思って、玄関ののぞき窓を覗く。

誰もいない。

置き配かと思い、扉をあけた。

やっぱり誰もいない…。そう思ったときに、視線を感じた。

左側には、真っ黒く黒塗りされた人型の”何か”が、口元だけをひきつらせニヤリとした笑みを浮かべていた。

ハッとして飛び起きる。夢だ。

それにしては、やけにリアルだ。本当に驚いたし、なんなら外にも確認しにいったが、人影は一切ない。

ずっと踊り狂ったように動く心臓を落ち着かせるべく、大好きなカップラーメンを詰め込んだ棚に手をかけ、昼食を物色し始めたところで、先ほどの夢は忘れていった…。

時は経ち数年後・・・。

久々の恋人ができた私は、自宅に彼を招いた。携帯電話に来る通知をみながらお茶の準備なんかして、楽しみにしてまっていたところ。

玄関チャイムが鳴った。

やっときた。にやけ顔を落ち着かせながら、玄関の覗く窓をみると…

誰もいない。

「なんだ、驚かせる気だな」そんなことを思って勢いよくドアを開けると…

誰もいない。

そんなことを思った瞬間、左側に気配を感じる。

ばっと顔をむけると、ドアの陰からひょっこりと顔を出し、ニヤリとした顔で彼がいたのだ。

「わあっ」

私の驚いた声が敷地中に響き渡り、その声を聞いた彼自身も少し飛び上がって、お互いに笑いあった。

その後、彼の胸ぐらをつかみ、そのまま室内に引きずり込んで居間に正座させてお説教が始まったのは言うまでもない。

そんな数年前の付き合いだした頃の出来事を、一軒家で朝のコーヒーを入れながら思い出した。

ドリップしたコーヒーの黒い泡を見つめ、その「黒色」から、あの夢の「人型」を思い出す。

そして、今や夫となった「彼」は、あの夢の「人型」の姿ときれいに重なるのだ。

その後、起きてきた夫にコーヒーを出しながら、ふと気になって聞いてみた。

そうすると、私があのアパートに住み始めた時期と、彼がこの地域に引っ越してきた時期が重なることがわかった。

『神様が運命の出会いをお知らせしてくれたのかな』と思いながら、二人で一緒に朝食を迎えるのだった。

・・・という、とある日のリアルな夢を思い出した掌編小説です。

好き放題書いている間って結構楽しいですね。

rikka's Diary

自分にしか書けないこと

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