何の脈絡もなく、ちょっとダークな超短編のお話です。
こういう、何も考えずに自分の好きなことをまとめている時はリラックスできるんだよなぁ・・・。仕事の話がきたので、これをエンジンにしてHP更新しようかな。
1.
なぜ虫が嫌いな人が多いのだろうか?
あのうねうねした不規則な動き
もぞもぞと動くやたらと多い脚
うねうねと進んでいくあの体
考えていくと、嫌いになれる理由は沢山ありそうだ。
私は、肌に這ってきた時の感触以外はどうでもよかったけど、今この瞬間からすべてが嫌いになった。
2.
農民の生まれなので、外の環境は苦ではなかった。
慣れかどうかで語る以前に、家業だったためそれが普通のことだったからだ。
そこにつきものだったのは虫。いままで沢山の種類の奴らを見てきた。
虻、蜂、蛾、蜘蛛、芋虫。蝶や蛍もいたかもしれない。
学のない私にわかるのはそれくらいだろうか。
良く分からないやつらも沢山いたけど、体に這い登ってきたり、刺してきたりで気が散った時は追い払っていた。
こんな感じで、虫に対して何も思っていなかったが、ごくまれに、畑の近くで動物の死骸を見つけた時はちょっとだけ気分が悪かった。
病気なのか、ケガなのか、はたまた猟師に打たれたのかは知らない。だが、蛆やハエが群がり、どんどん肉が剥げて骨が見えていく様は、あまり見れたものではない。見つけたら、適当に鍬で穴を掘ってそのまま埋めるようにしていたけれど、時々そのままにしてしまっていた。
3.
そのうちに、見合いで妻をもらって家庭をもったが、子どもはいなかった。結婚後は夫婦で細々と家業を続けていたが、数年後に妻は病で先に逝ってしまった。
畑仕事で苦労を掛けた妻に対して、畑の端で死んでいた動物たちのようにはできない。簡単なものだが棺を用意して、きちんと家の横に埋葬した。
不思議なものだ。亡くなった途端、肌は蝋人形のようになり、気配は完全になくなってしまう。まさしく「物体に成り下がって」しまった。
私は、仏なんぞ信じない。死んだら、無だ。親もなく、兄弟もない。妻にも先立たれた。この先一人で小さい畑を守ってそのうちに死ぬのだろう。孤独に対しては何の感情もわかなかった。
4.
私の命が途絶えたのは、妻の死の記憶が薄れてきた頃だ。なぜ死んだのかはわからない。
胸が詰まって息苦しくなり、そのうちに畑で倒れていたから、寿命なのだろう。
私は、私だったものを見つめていた。
街から離れたこの場所は、なかなか人が通ることはない。身寄りがない私は、そのまま朽ちていくはずだ。
私だったものは、眺めているうちに、どんどん様変わりしていった。
畑仕事の時に邪魔してきていた虫達が、死体によじ登ってくるのだ。蝋人形のようになった肌を埋め尽くし、蠢き、死体の肉を喰らっていく。妻の死の時よりも激しい感情が体中を駆け巡った。
魂だけになった身なのに、体中がむずがゆい、もぞもぞした感触に埋め尽くされていき、おぞましさで身もだえた。
おねがいだ!やめてくれ!私の体なんだ。静かに寝かせてくれ。
日に日に体の肉は剥げ、臓物まで見えてくる。肉体はドロドロに溶け、骨が見えていく。
朽ちていく間にも、虫が体中を這っている感触が永久に消えなくて気が狂いそうだった。
神も仏も信じていなかったが、まさしくこれは地獄。
永遠のような地獄を感じているうちに、全身がふわっと暖かいものに包まれるのを感じた。その瞬間、体が蝕まれていく感覚は消えた。
「あなた、遅れてごめんなさいね」
久々に会った妻は、生前と変わらぬ姿で目の前にいた。
地獄から抜け出した安堵から、体の力が抜けて記憶が途絶えた。
5.
なぜ虫が嫌いな人が多いのか?
きっと、死後の体に虫が這いずり回って、その感触が忘れられないまま新たな生を受けた人が多いからではないだろうか。
新たな生に関しては「地獄の記憶」が薄れるまで、妻との時間を過ごさせてもらった後に考えよう。
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