小説 海に呼ばれた2

前回の続きです。


「あおちゃん、きょうは何してあそぶ?」

ふわふわうかんで目のまえではなしかけているのは、『りゅう』というなまえって言っていた、ねこなのにあしをじめんにつけなくてもあるけるんだって。


「うんとね、しりとり」

そしてそのまましりとりしつづけるんだ。「りゅう」は、よくわからないことばをいうときもあって正かいかどうかもわからないけど、それでいい。あそんでくれるんだもの。

そうして、お空がオレンジ色になりはじめたころにあそび終わる。


「りゅう、もうわたし帰るね」

「えー。つまんないの。海の中にある、ぼくの家で遊ぼうよ」

「おかあさんが待ってるから・・・」

「いつも思うんだけどさ、あおのお父さんとお母さんって、おうちにいないんでしょ?なんで帰るの?1日くらいいいじゃん!」

「だって、かぞくだもん」

「おうちにいないのが家族なの?ぼくのおうちはお父さんもお母さんも、おじいちゃんやおばあちゃん、お友達もいーっぱいいるんだからね!!楽しいよ」

「う、うん・・・」

「まぁ、いいや。明日ね。・・・でもさ、家族って何だろうね」


「りゅう」とはいつもこんな感じでおはなししてかえる。わかってるよ。他のお友だちのおうちは、この時間にはおかあさんがおうちでごはんを作ってまっていて、いっしょにおふろに入って、ふかふかのおふとんでいっしょに寝る。

わたしは、ひとりで冷めたごはんをあたためて、ひとりでしたくをして、ぬいぐるみのお友だちといっしょにねる。はじめはまっくらなお部屋で泣いていたけど、いまはもうへいき。


「りゅう」の「ぼくのおうちはお父さんもお母さんも・・・みーんないっぱいいるんだからね!!!」ということばをおもいだして「いーなぁ。いっかいりゅうのおうちにあそびにいってみたい」と思いながら、そのうちねむっていて、あさになる。



あさ。おかあさんはいたりいなかったりするんだけど、きょうはいなかった。

おとうさんも、しばらく海にでていて、かえってこない。


だから、きょうもひとり。よし、「りゅう」にあそんでもらおう!


のこっていたごはんを食べて、いそいでじゅんびをする。

きょうこそは、「りゅう」のおうちに連れていってもらおう。きめた!。


リュックにぬいぐるみのお友だちや、おみずや、おやつをつめて、じてんしゃをこいで「こぶかりいし」へむかった。みちのとちゅうからは、じゃりがおおいし、さかもきゅうなので、じてんしゃをおいて、リュックだけ背負う。


わくわくしながら、さかをかけのぼる。「りゅう」のおうちにはじめていくから、いつもよりも楽しみ!


「りゅう」のおとうさんは、かっこいいねこなのかな

おかあさんはきっと、ふわふわしていてかわいいんだろうな

おじいちゃんとおばあちゃんはどんなねこなんだろう。

わたしには、おじいちゃんもおばあちゃんもいないからわからない。

いつもより走るはやさをあげながら、そんなことを考えていた。



…なんだかいつもより長いじかんはしっている気がする。

どうしたかな?と思っていたら、いつものがけについた。


でも、なにかおかしい。

このじかんなら、お日さまがのぼっているところが見られるはずなのに、夜みたいに真っ暗。お月さまもない。風がびゅうびゅう強くふいていて、気をぬいたらあっという間にがけからおちそう。


こわいな…どうしよう。おうちにかえろう。

こわくてきたみちをもどろうと思ったのに、気づいたら、わたしひとりしか立てないような大きさしかないじめんになっていた。


つよい風で立っているのがやっと。はるか下には、あれくるう海とがけ。


いつもは広くて、ねころがってあそべるじめんが、こどものわたし一人がぎりぎり立っていられるほどの大きさしかない。


えほんで読んだかいぶつのなき声みたいな「ごおおお」という音が、耳をふさいでもうるさくはいってくる。


こわい。たすけて。おうちにかえれない。

「しんじゃう」そう思った。


そのとき、あしに氷みたいにつめたい何かがふれた。


「あお・・・ぼくのおうちに行きたいんでしょ?」

「!いやぁ。はなして!」

「・・・?りゅうだよ?どうしたの?」

「いやだ、やめて、はなして」


「りゅう」だった。でも、「りゅう」じゃない


いつもはわたしのおひざにのるくらいの大きさの「りゅう」が、どうぶつえんの象やライオンよりも大きなからだになっていて、いつものふわふわした体じゃなくて、どろどろに、ほねや赤いにくまでみえる「くさった」体になっていた。


声だって、ねこらしいほそいなきごえじゃなくて、ひくくかすれて聞いたこともないほどこわい声になっていた。


なんで、なんで、なんで。


りゅう・・・。


「ねえ、おいでよ」


ものすごい力で、あしをひっぱられて、からだがぐらりとゆれた。

もうおちる。しんじゃう。こわいよ、いやだよ。


ぎゅうっと目をとじた時、こんどは温かくてやわらかいなにかが、うでをひっぱった。

「あお!!!」

「おかあさん???」

そのまま、おかあさんの胸にふわりと抱きしめられた。

ふかふかして、あたたかい。

「なんでないてるの?」

さっきの「りゅう」ほどじゃないけど、つよいちからで抱きしめられたままうごけずにいたら、おかあさんが小さくないている声がきこえた。

「心配したのよ。いつも寂しい思いさせてごめんね。」

やっとちからがゆるくなったので顔をあげると、おひさまがちゃんとのぼっていて、ぴかぴかに晴れたあおぞらとおだやかにざあざあと音がなる、いつものうみが広がっていた。

あかるい日ざしにホッとして、わたしはそのまま気をうしなった。

0コメント

  • 1000 / 1000